老犬がここ1週間で急に衰えてしまいました。
老犬を飼っていると、ある日突然弱ってしまう場面に直面するかもしれません。
昨日まで元気に歩き回っていたのに、急に立てなくなったり、食欲を失ってしまうと、飼い主としてはとても心配になります。
実際にネット上には、
「あんなに元気で走り回って吠えていたのに、動物ってこんなに急に老いるんですか?」
と戸惑う飼い主さんの声も。
そこで本記事では、老犬が急に弱る原因やその時に見られる症状、そしてその時の対処法と注意点について、公的機関や専門家の情報に基づいて詳しく解説します。
いざという時に慌てず対応できるよう、ぜひ参考にしてみてください。

2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒。同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務。犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年より1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修、記事作成など幅広い業務を行っている。
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老犬が急に弱る原因とは?
老犬が突然元気をなくす背景には、加齢に伴う体力の低下から特定の病気の発症まで、様々な要因が関係します。
そこでまずはじめに、老犬が急に弱る原因について詳しく述べていきます。
加齢や老衰による体力の低下
高齢の犬は人間と同じように身体機能が衰えており、筋力や内臓の機能が低下しています。
たとえ健康であったとしても、筋力が落ちて踏ん張りがきかなくなり、立ったり歩いたりするのが難しくなるのです。
実際には少しずつ進行していた老化であっても、犬自身が本能的に弱った姿を隠そうとするため 、ある日を境に急に弱ったように見えます。
※犬は、「敵から身を守る」ために、痛みや不調を隠し、普段通りに振る舞おうとする傾向があります。
こうした虚勢を張る行為に限界が来た時に、初めて目に見える形で衰えが現れるので、飼い主は「突然弱った」と感じるのです。
病気による急激な体調悪化
老犬が急に弱る背景には、なんらかの疾患が症状を悪化させる可能性もあります。
年齢とともに、人と同じく犬も様々な病気にかかりやすくなります。
もしも愛犬が、
「急に元気がなくなった」「起き上がらなくなった」
という時は、以下のような病気も念頭に入れておきましょう。
- 心臓病(僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症など) → 咳、呼吸困難、疲れやすい、食欲不振
- 腎不全・肝機能障害 → 食欲不振、嘔吐、ぐったりする
- 神経系の病気(前庭疾患、脳腫瘍など) → 麻痺、ふらつき、傾き、反応が鈍い
- 椎間板ヘルニア → 首や腰の強い痛み、麻痺、踏ん張りが効かない
- 関節疾患や骨のケガ → 季節の変化による痛み、寒がる、立ち上がれない、転倒
- その他の病気 → 感染症、貧血、低血糖による衰弱
以上の通り、犬にも様々な病気に伴う症状があります。
愛犬の様子が少しでもおかしいと感じたら、なるべく早く獣医師に診てもらいましょう。
環境や生活要因によるもの
老犬は環境の変化やストレスの影響で体調を崩しやすく、それがきっかけで急に弱ることもあります。
高齢であることで、気温や生活環境の変化で体調を崩しやすいので注意が必要です。
季節の変わり目と運動量
例えば、真夏の暑さによる熱中症は老犬にとって命取りになりかねません。
少し散歩しただけで立ち止まり、ぐったりして動けなくなることがあります。
また、寒さで体温を奪われると筋肉が硬直し、関節痛が悪化して動けなくなることもあります。
そして、過度な運動や興奮させることも、老犬には大きな負担になります。
心臓に疾患を抱えている犬は、運動をした後に失神してしまうケースもあるので十分注意しましょう。
生活環境の変化
そして、日常生活における変化や出来事も影響します。
引っ越しや家族構成の変化があると、犬はストレスで食欲不振になったり体調を崩しやすくなります。
実際に、老犬を飼っていた家庭で、餌の種類を変えた翌日から様子がおかしくなり、その後食べ物を一切受け付けず、目がうつろになってしまったそうです。
結果、その老犬は寝床でお漏らしをするほど衰弱し、たった1週間で急に老犬らしい症状が一気に出たといいます。
具体的な原因は明らかではありませんが、少なくとも新しいフードへのストレスが、体調を崩す引き金となり弱ってしまった可能性は考えられます。
このように老犬が急に弱る背景には、加齢による体の衰えと、気温や環境要因とが複雑に絡み合っていることがあります。
大事なのは「なぜ急に弱ったのか」を冷静に見極めることです
続いては、実際に老犬が急に弱ったときに見られる症状について解説します。
老犬が急に弱る時の症状
老犬が急激に弱ると、普段との違いがはっきり現れることがあります。
その中で、特定の症状やサインが見られたら要注意です。
ここで主な症状をまとめていますので、犬の様子をチェックする際の参考にしてください。
足腰に力が入らない、歩行困難になる
1つ目は、足腰に力が入らず、うまく歩けなくなる状態です。
後ろ足に力が入らないことで、
- うまく立ち上がれない
- よろよろしてしまう
- 段差でつまずく
- 足をひきずる
- すぐにへたり込んでしまう
といった様子が見られます。
これらは筋力の低下、神経系、関節痛など様々な原因で起こります。
極度の疲労感、無気力になる
2つ目は、老化による疲労感や無気力になってしまう症状です。
老犬になると、以前より明らかに反応が鈍くなり、呼んでもすぐには反応しなかったり、一日の大半を寝て過ごすようになります。
好きなおもちゃ・おやつを見せても興味を示さず、また、散歩にも行きたがらなくなるでしょう。
立っていてもすぐ横になってしまったり、起き上がるのもおっくうに見えたりもします。
「ぐったりしている」「ぼーっとして元気がない」
といった状態が続く場合、体のどこかに不調があり、心身ともに弱っている可能性があります。
食欲不振・水を飲まない
3つ目は、水や食べ物を口にしなくなる状態です。
急激に弱った老犬には、食べ物や水を口にしなくなる症状もよく見られます。
喜んで食べていたものに見向きもしなくなったり、フードの匂いを嗅ぐものの、ひと口ふた口でやめてしまうことがあります。
水も飲まなくなってしまうと、口が乾燥したり皮膚に弾力がなくなり、脱水症状を起こす危険性もあります。
口元に食器を近づけても顔を背けたり、手で与えても受け付けないといった場合は、重度の食欲不振です。
口腔内や神経の異常でうまく飲み込めず、ダラダラとよだれを垂らすこともあるので、食欲不振になった時はすぐに獣医師に診てもらいましょう。
排泄の失敗・失禁
4つ目は、トイレがうまくできなくなる状態です。
これまできちんとトイレができていた犬が、トイレまで歩く体力がなくなり、寝たまま尿や便を漏らしてしまいます。
頻繁にお漏らしする、あるいはトイレに行こうとする素振りすら見せない場合、よほど弱って動けない可能性があります。
特に下痢やおう吐をして、その場から動けずにいる場合は要注意です。
トイレがうまくできず、汚してしまっている状況を見て、老犬自身も落ち込むことも少なくありません。
飼い主は「大丈夫だよ」と、心のケアもしっかりしてあげましょう。
呼吸や脈の変化
5つ目は、呼吸が荒くなったり脈拍に変化が見られるといった症状です。
弱った老犬は呼吸が浅くなり、ハァハァと息づかいが速くなるといった、呼吸の仕方に変化が現れます。
特に心臓に問題があると呼吸困難のほか、咳が出たり息切れといった症状が現れます。
※高齢犬の75%は心臓に何らかの疾患を持つと言われています。
参考:small door「Senior Dogs 101: Common health issues in senior dogs」
もしも脈拍に乱れがある、触れてみると以前より脈が弱いと感じたら、すぐに病院へ連れていきましょう。
呼吸や循環器の異常は命に直結するため、少しでもおかしいと感じたら早めに対処してください。
震えや痙攣をおこす
6つ目は、体温の変化による震えや痙攣の症状です。
体温の低下や痛みによって、体を小刻みに震わせていることがあります。
特に何もないのに震えている場合、強い痛みや極度の衰弱、あるいは発熱による悪寒が考えられます。
また、脳の異常で痙攣発作を起こすと、意識を失ったり、手足の突っ張り、口から泡を吹くなど激しい症状が出ます。
発作後は、しばらく呆然として立てなくなることもありますので、痙攣までいかなくとも、一部の筋肉がピクピクするような様子が見られたら危険信号です。
焦点が合わない・反応の低下
7つ目は、目の焦点が合わなかったり、反応が鈍いといった症状です。
例えば、目がうつろで反応が薄い、名前を呼んでも気づかないなど、意識が低下しているように見える状態です。
また、耳が遠くなったり視力が低下した結果として、反応が鈍くなっている可能性もあります。
しかし、普段と明らかな違いを感じる場合、単なる加齢による変化ではなく、脳への血流が低下していたり、重い症状である可能性が高いです。
以上のように、症状の現れ方は原因によってさまざまですが、
「明らかに普段と違う…」「見るからに弱っている…」
と感じられる時は、迷わず獣医師に相談しましょう。
以下は老犬が急に弱る時の症状のまとめです。
老犬が急に弱る時の症状
- 足腰に力が入らない、歩行困難になる
- 極度の疲労感・無気力
- 食欲不振・水を飲まない
- 排泄の失敗、または失禁
- 呼吸、脈拍の変化
- 震えや痙攣をおこす
- 焦点が合わない・反応の低下
老犬が急に弱った時の対処法と注意点
愛犬が急に弱ってしまったとき、飼い主としては慌てずに適切な対処をすることが大切です。
また、高齢犬の介護にはいくつか注意すべきポイントがあります。
最後に、具体的な対処法と注意点を解説します。
まず獣医師に相談し、原因の判断を仰ぐ
老犬が急激に衰えた場合、真っ先に検討すべきは動物病院での受診です。
加齢によるものだけなのか、それとも何らかの病気が隠れているのか、専門家の診断を受けることが第一です。
特に以下のような場合は、獣医師の診察を早々に受けてください。
- 意識がない・反応しない
- 呼吸困難や失神
- 痙攣が止まらない
- 一日以上何も食べられない・水も飲めない
- 激しい痛みの兆候がある
受診の際は、いつからどんな症状が出ているか、食事や排泄の様子、持病や投薬状況などをきちんと伝えましょう。
老犬の場合、血液検査やレントゲン、エコー検査などで内臓機能や骨関節の状態を調べ、必要に応じて点滴治療や投薬が行われます。
心臓病が疑われる場合は、心電図や超音波検査。脳の病気が疑われる場合は、高度医療施設でMRI検査を受けることもあります。
自宅で応急処置を行う
病院へ行くまでの間や自宅で待機する場合、老犬が少しでも楽になれるようケアをしましょう。
自宅で行う応急処置のポイントは以下の通り。
- 無理に動かそうとしない
- 静かな場所で休ませてあげる
- 室内を犬の適正温度・湿度に保つ
- 水分補給をする(飲まない場合は濡らしたガーゼで口を潤す
- 止血や包帯などの応急処置
もしも体に痛みを感じている場合は、無理に動かすと返って痛めたり、興奮してパニックになりかねません。
発作や痙攣が見られる時も、刺激しないように治るのを待ちましょう。
介護に向けた準備をする
老犬が急に弱ってしまうと、その後介護が必要になってきます。
介護するには、生活環境を整え、できるだけ快適に過ごさせてあげる工夫が必要です。
以下は、介護における生活環境の準備と注意点です。
犬の生活するスペースに段差を作らない
足を滑らせないようマットを敷く
寝床を低くし起き上がりやすくする
水や食器皿を少し高い位置に置く
水を様々な場所に置く
トイレのサポート(排泄の補助、ペット用おむつやマナーウェアの使用)
床ずれの補助(低反発マットや体圧分散クッションなど)
定期的な爪切りとブラッシング
無理のない運動、ストレッチやマッサージ
こうして見ると全てこなすのは大変に感じますよね。
まとめて一気にやろうとせず、犬がシニア期に入るタイミングで準備していきましょう。
食事を工夫する
最後に、老犬は食欲不振になりがちです。
シニア期に入り、味や見た目の好みに変化が現れることも少なくありません。
実際に、シニア犬に対する調査において、「愛犬がシニアになってから好きになった食べ物」には、次のようなものがあります。
- 柔らかい食べ物全般
- 柔らかくしたフード
- ウェットフード
- 茹でたササミ
- 茹でた野菜
- 玉子焼き
- 茹でたレバー
- リンゴ
- ヨーグルト
- 茹で卵の黄身
- メロンなどの果物
- 鹿肉
- 牛肉
- 柔らかく煮たスジ肉
- ローストビーフ
- 豆腐
- たまごボーロ
- 硬いドッグフード
- 匂いの強いもの全般
- 煮干し
- 歯磨きガム
シニアになると、腸の働きや嗅覚の衰え、歯が悪くなるといった症状が出てくるので、
「匂いが強く柔らかいもの」
を好む傾向があるようです。
愛犬が少しでも食べられるように、食べ物もひと工夫しましょう。
老犬の介護は、肉体的にも精神的にも大変です。
しかしながら、老犬の急激な衰えは「その時」が近いサインでもあります。
飼い主として辛いことではありますが、愛犬にしてあげられることを優先し、少しでも多く側にいてあげてください。
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まとめ
老犬が急に弱ってしまうのは、飼い主にとってとても悲しく不安な出来事です。
しかし、その陰には加齢による自然な衰えから病気の進行まで、様々な原因があることを理解し覚悟も必要です。
その上で、日常生活では愛犬が少しでも快適に過ごせるよう環境を整え、食事やトイレの手伝いを行い、精神的にも愛犬のことを支えてあげましょう。
一日一日を大切に、愛情をたくさん注いでくださいね。