犬が発情期でうるさくて困っています。
どうしたら静かにさせることができますか?
あなたも飼っているオス犬が、急にソワソワして吠え続けるようになった。そんな経験はありませんか?
特にメス犬が発情期(いわゆる「ヒート」)に入ると、オス犬は落ち着きを失ってしまい、鳴き声がうるさく感じられることがあります。
これはオス犬の本能による自然な反応ですので、決して珍しいことではありません。
とはいえ、飼い主にとっては困りものですよね。
ここでは、なぜ発情期のメス犬にオス犬が影響されてしまうのかを解説し、その上でオス犬が吠えて落ち着かない時の具体的な対処法をご紹介します。
参考文献・資料
本記事では、動物行動学の研究論文や獣医学情報、獣医師監修の専門サイトなどを参照し、本記事の内容をまとめています。去勢手術の効果に関するデータや、発情期における犬の行動変化については、最新の研究知見に基づいて説明しています。
・Science:「犬の性フェロモン」

2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒。同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務。犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年より1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修、記事作成など幅広い業務を行っている。
目次
なぜ発情期のメス犬にオス犬は影響されるのか?
メス犬が発情期に入ると、繁殖のためにフェロモンを放ちます。
これは「メチルp-ヒドロキシベンゾエート」と呼ばれるもので、オス犬を性的に興奮させるフェロモンであることが明らかになっています。
そして人間には感じ取れなくても、オス犬はこの匂いを鋭敏に嗅ぎ分けられるのです。
実際、オス犬は遠く離れた場所からでも、発情中のメス犬の存在を感知できるほど嗅覚が優れており 、発情中のメス犬の匂いを嗅ぎつけると本能的に興奮してしまうのです。
このフェロモンの影響で、普段はおとなしいオス犬でも発情中のメス犬を前にすると気が気でなくなります。
例えば、発情期のメス犬が近くにいると、以下のような行動をおこします。
- 落ち着きがなくなる
- 家の中を歩き回る
- 興奮して吠え続ける
- クンクン鳴いだりする
- 食欲が落ちる
- 必要以上にマーキングをする
他のオス犬が近寄ると攻撃的になったり、メス犬を追いかけようと徘徊・脱走しようとするケースも珍しくありません。
これらはすべて、オス犬の「交配したい」という本能に根ざした行動です。
オス犬が発情期のメス犬に反応して引き起こすトラブル例
ネットで調べてみたところ、実際に悩んでいる飼い主からの切実な声が多く見つかりました。
以下は、飼い主の声とそこから読み取れるトラブルの内容です。
夜中にずっと鳴く、遠吠えが止まらない
「夜になると急に落ち着かなくなる」
「夜中までうるさいので近所に迷惑がかかる」
「うるさくて夜眠れない」
こういったケースは多く、苛立ちやストレスを抱える飼い主が見受けられました。
メス犬に異常に反応する
「雌犬に向かってずっと吠えている」
「急に脱走していなくなった」
メス犬のニオイに対する反応が過敏になり、飼い主も制御できない様子が伺えます。
ごはんを食べない、元気がない
「フードを口にしない」
「水だけ飲んでいる状態が続いた」
「ずっとクンクン言っている」
このような声もあり、健康への影響を心配する声もありました。
マウンティングやマーキングが激増した
「普段はしない場所でもマーキングを繰り返す」
「ストーカーのようにしつこく付いて回る」
「家具にまでマウンティングした」
など、普段との違いに困惑するケースも。
結果:対策が分からず困っている飼い主が多い
「去勢はすべきなの?」
「かわいそうだけど隔離する方がいい?」
「どうすれば静かになるのか…」
といった、根本的な解決策を求める質問が目立ちます。
このように、実際の飼い主たちの悩みを見ていくと、発情期のトラブルは思っている以上に生活に影響することが分かります。
飼い主としてできることを知っておくことが、犬にも人にも優しい環境づくりになります。
落ち着かないのは自然な反応。そこで飼い主にできることは?
発情期のメス犬がいると、オス犬が吠えたり落ち着かなくなるのは生理的に当然と言える反応です。
そのため、無理に叱りつけても根本的な解決にはなりません。むしろ犬を落ち着かせるには、飼い主さんが環境を変えたり、気を紛らわせる措置を取る必要があります。
また、後述するように、去勢手術を行うことで抑えられたり、発情期特有の行動が軽減されることがわかっています。
実際に複数の研究で、去勢手術によってオス犬のマウンティングや過度なマーキング、徘徊行動が減少することが報告されています。
去勢には健康面でのメリットもあります。しかしながら手術ですので、慎重に判断する必要があります。
以上を踏まえ、次にオス犬が発情期の影響でうるさく落ち着かないときに役立つ具体的な対処法を5つ見ていきましょう。
オス犬がうるさいときの具体的な対処法5選
では、発情期のメス犬に気を取られて吠え続けるオス犬に対し、飼い主はどのような対策を取ればよいのでしょうか。
ここでは、オス犬がうるさく落ち着かない時の具体的な対処法をご紹介します。
それぞれ愛犬に見合った方法を試してみてください。
物理的に距離を置く(隔離する)
まず、最も効果のある対処法は、興奮の原因であるメス犬とオス犬を物理的に引き離すことです。
発情中のメス犬が家庭内にいる場合は、絶対に直接会わせないように別々の部屋に分けて隔離しましょう。
可能であれば家の反対側など距離をとり、オス犬にはメス犬の存在が視界や匂いに入らない空間で過ごさせます。
一つ屋根の下で隔離する場合、ケージや頑丈なドアでしっかり区切る必要があり、簡易的なものでは興奮したオス犬は乗り越えてしまいます。
実家や友人宅など頼れる場所があれば、発情期間の間、オス犬を一時的に預かってもらうのも有効です。
もちろん反対に、オス犬ではなくメス犬を預けてもいいでしょう。
身内で犬を飼っている人や犬仲間に事情を説明すれば、きっと理解して預かってくれます。
とにかく発情期の約2〜3週間の間は、可能な限り接触を断つことです。
近所のメス犬に反応している場合も、散歩コースを変えてその犬の居場所から遠ざけるなど、匂いや姿がなるべく届かない距離を保つ工夫をしましょう。
発情中のメス犬のニオイを抑える
オス犬の興奮を鎮めるには、原因であるメス犬のフェロモン臭を可能な限り減らします。
自宅でメス犬とオス犬を飼っている場合は、メス犬の発情中はいつも以上に清潔にしましょう。
手間はかかりますが、床やカーペット、寝具などに付着したニオイを落とします。
また、メス犬を入浴させることによりニオイを軽減できますが、過度に入れると肌の乾燥にも繋がるため、適度に行うのが理想的です。
入浴の際には、お風呂にアップルサイダービネガーを加えると、ニオイを隠す効果があります。
完全にフェロモンを防ぐことはできませんが、できるだけニオイの拡散を抑えるだけでも、オス犬の興奮を紛らわせることができます。
十分な運動と遊びで発散させる
体力を消耗させることも興奮を抑える有効な手段です。
オス犬がソワソワ落ち着かない時は、いつも以上に散歩や運動の時間を確保してあげましょう。
たっぷり散歩をして体を動かせば疲れるので、その後は静かに休む時間が増えるはずです。
早めに散歩に連れ出したり、ボール遊びなどして遊ばせたりして、気を紛らわせつつ体力を消費させる工夫をしましょう。
ただし、散歩中に発情中のメス犬がいる可能性もあります。
メス犬に近づくと逆効果ですし、他のオス犬が匂いにつられて集まってきて混乱する恐れもあります。
人通りや犬の少ないルート、時間帯を選び、落ち着いて歩ける環境で運動させてあげることがポイントです。
フェロモン製品や去勢手術の活用
オス犬の発情による興奮を和らげるために、犬用フェロモン製剤というものもあります。
犬用のフェロモンディフューザーやスプレーには、発情期の動揺を抑えたり、リラックスさせる効果が期待できます。
たとえば、アダプティル(Adaptil)という合成フェロモン製品は、犬が問題行動を起こすとき(吠える、鳴く、うろうろ歩き回るなど)に効果があるとされています。
ただし個体差もあるため、使用する際は獣医師に相談し正しく用いましょう。
また、根本的な解決策として去勢手術を検討しましょう。
去勢を行うと、オス犬の性的な本能による行動(メスへの過剰な反応、マーキング、徘徊、攻撃性など)が軽減されることが科学的に示されています。
そして去勢をすると、発情期特有のストレスから解放され、オス犬自身も落ち着いて生活できるようになります。
これに加えて望まない妊娠を防げるほかに、前立腺疾患や精巣腫瘍など、オス犬特有の病気の予防にもつながるという健康上の利点もあります。
去勢手術をするタイミングは、犬が成熟期を迎える前の生後6ヶ月頃が推奨とされています。(※メスの『避妊手術』も同様)
手術にかかる費用の目安は以下の通りです。
犬の大きさ | 去勢手術費用(オス) | 避妊手術費用(メス) |
小型犬(〜5kg) | ¥32,772 | ¥46,213 |
中型犬(〜10kg) | ¥36,341 | ¥50,409 |
大型犬(〜20kg) | ¥43,181 | ¥57,931 |
※動物病院10社の手術費用より平均値を算出しています。
多くの場合、オスの去勢手術よりメスの避妊手術の費用が高いです。
犬が20kgを超える場合や術前検査、入退院における費用は動物病院によって異なりますので、詳しくはお近くの動物病院へお問い合わせください。
また、お住まいの市区町村、自治体によっては去勢・避妊手術の補助金を受けることができます。
詳しくはこちら▷ 環境省「犬・猫の引取り等手数料及び不妊・去勢手術助成金」
※但し、手術にはリスクも伴います。
科学的・疫学的な根拠となる研究調査はありませんが、去勢を行うことで、肥満、毛質の変化、麻酔による事故や合併症などが起こりうると言われています。
去勢をした後のリスクを考慮すると、飼い主はフードやおやつをコントロールする必要があります。
詳しくは、犬の年齢や健康状態、ライフスタイルについて、獣医師とよく相談した上で判断した方が良いでしょう。
まとめ
以上の通り、発情期のメス犬に影響されて、オス犬が吠える・落ち着かない時の原因と対処法について解説しました。
発情によるオス犬の興奮を完全にゼロにするのは難しいですが、飼い主さんの工夫次第で症状を和らげることは可能です。
しかしながら、このような行動は犬の本能からなるものであることを、きちんと理解する必要があります。
無闇に叱るのではなく「こういうものだ」と割り切って、環境を整えたり、注意を逸らすなどしてサポートしましょう。